不登校の子供に対して、「共感」することは非常に大事だと思います。実際、カウンセリングでも、親御さんに対して、子供に「共感」することをお勧めしています。
「共感」。相手の心や気持ちに寄り添い、その心の中にある悩みや苦しみなどを含めた感情を、理解しようとすることです。
不登校の子は、自分の気持ちをあまり表に出さないことがあります。自分の悩みや苦しみを心の奥底に閉じ込めてしまうのです。周りの人に心配をかけたくないという気持ちから、そうしてしまうこともあれば、弱みを他人に見せたくないというプライドから、そうしてしまうこともあります。
ただ、そのような心の状態だと、なかなか悩みや苦しみが小さくなっていきません。そうした気持ちを他人に話すことで、たとえ悩みや苦しみの原因が解決しなくとも、人はそういう気持ちを軽くすることができます。他人に話さなければ、悩みや苦しみがそのまま残ってしまって、小さくなっていくまでに時間がかかります。
そのような心の状態の不登校の子に、「共感」の姿勢でコミュニケーションすることは、閉ざしてしまっている心を開くことになります。そして、その心の奥底にある悩みや苦しみを解放することができます。「共感」は、不登校直後からしばらくの間の、悩みや苦しみが大きい状態の時に、不登校の状況を改善する、有効な方法です。
それに加えて、共感は、親子の信頼関係をさらに強めます。子供にとって、親が「共感」してくれたことは、親への信頼感を高めることになります。自分の悩みや苦しみを理解してくれたことは、子供にとって大きな喜びです。そうして高まった信頼関係は、子供へのコミュニケーションをよりやりやすくしてくれます。不登校の状況を変える意味でも、価値あることです。
では、共感さえしていればいいかというと、そういうことにはなりません。共感だけで、子供とコミュニケーションをしても、不登校の状況はある段階で止まってしまうでしょう。それは、子供の悩みや苦しみがある程度、小さくなった段階です。一般的には、不登校の「安定期」の後半あたりの段階になります。
「止まってしまう」というのは大げさな表現かもしれません。不登校の状況が変化するスピードが遅くなる、と表現した方がいいでしょう。それは、悩みや苦しみは共感によって小さくなっているけれども、共感だけではさらに前に進むことは難しいからです。
この状況で、子供たちの心の中には、悩みや苦しみは小さくなっていますが、さらに前に進むには、心の中に「前に進もう」と思えるだけの希望や、「失敗しても大丈夫なんだ」という思いが必要です。子供の悩みや苦しみに寄り添う「共感」だけでは、なかなかそういう思いは出てきません。そういう思いが子供の心の中で大きくなるには、そういう思いが大きくなるようなコミュニケーションが必要です。「共感」ではなく、「励まし」や「勇気づけ」という姿勢になるでしょうか。
不登校の子供たちが、自分の将来に希望を持てるようになるには、希望を見出すような、あるいは希望を創り出すような考え方を伝えなければなりません。まだ将来に不安があり、自信も十分でない状態で、どうやって希望を見出すことができるか、あるいは希望を創り出すことができるか、そういう考え方が子供には必要です。そういう考え方は、「共感」の姿勢だけでは決して、子供に伝えられないのです。
たとえ子供に伝えなくとも、子供が自分一人で、希望を見出し、また失敗しても大丈夫と考えるようになることはできます。ただ、それには時間がかかります。「共感」だけでは、不登校の状況の変化が、ある段階から遅くなるというのは、そういう背景があるからです。
どうせなら、子供たちのそばにいる人、たいていは親になりますが、不登校の状況が早く変化していくよう、共感以外の、希望などを伝えるコミュニケーションをとった方がいいでしょう。
不登校の直後から安定期の段階では、「共感」は重要です。ただ、それ以降は、共感だけでは不十分で、子供の心の状態をよく見て、さらに前に進もうと思えるような言葉をかけていくことが必要になってきます。
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