「自分はダメだ」「自分の将来には希望はない」と思ってしまっている不登校の子供に対して、大きく二つの考え方を示すことができると思います。一つが、
「そのままでいい」
という考え方であり、もう一つが、
「頑張るべき」
という考え方です。そのどちらの考え方が正しいのでしょうか。
結論から先に言いますと、両方正しいと私は考えています。両方の考え方とも正しく、その両方の考え方が必要だと思うのです。その理由について説明していきたいと思います。
まず、「そのままでいい」という考え方です。「そのままでいい」という考え方は、心が深く傷つき、「自分はダメだ」と深く自己否定感を抱いてしまっている不登校の子にとっては、救いの命綱になりえます。「自分はダメだ」という自己否定感を抱いているということは、自分自身に対して、自信を失い、自分という存在を自分で否定している状態です。その状態でいるところに、「そのままでいいよ、そのままの自分でいいよ」という言葉をかけてもらうと、「ああ、自分で自分のことを否定していたけれども、こんな自分でも『そのままでいい』んだ」と考えることができます。自己否定感をひっくりかえすきっかけになりえます。
また、「自分はダメだ」と思っている状態では、「今の状態から脱出しなければ。そのためには努力しなければ」と感じてはいても、そうすることができない状態です。努力しなければならない、前に進まなければならない、それは分かっているけれども、それができない状態であり、そのために焦りを感じている状態でもあります。
その状態のところに、「そのままでいい」という言葉をかけてもらえると、「ああ、今のままでいいんだ、焦らなくてもいいんだ」というふうに考えを変えることができます。焦りが薄れていき、落ち着くことができます。
では、もう一つの考え方、「頑張るべき」という考え方はどうなのでしょうか。これは、心の傷がいえてきたり、エネルギーが満ちてきたりして、活動することが可能になってきた状態の時に、適切な考え方だと思います。
頑張って努力し、それによって実力をつけていく、実力をつけていくことによって、今いる環境を変え、前に進んでいくことができます。不登校の段階でいうところの「安定期」の後半や「転換期」あたりにいる子供の状態が、まさにその状態です。「頑張るべき」という考え方を受け入れることのできる精神状態です。
これら二つの考え方は、一方だけではうまくいきません。
「そのままでいい」という考え方でしか、子供に接しないとすれば、どうなるでしょうか。
元気が出てきて、努力できる状態になってきても、「そのままでいい」という考え方で接したとしたら、努力しないでしょう。子供によっては、何か自分でやりたいことを見つけ、自分で努力するということもありえますが、周囲にいる人が、「そのままでいい」と言い続ければ、やはりその影響を受けることの方が多いです。努力することなく、力を身につけることもなく、結果、その環境の中にずっと身をおくことになります。それは果たして、子供にとって幸福なことかと考えてみると、難しいところがあります。
誰も彼もがスターになったり、出世したりするわけではありませんが、やはりそれなりに努力し、その結果を得ることで、幸福感を味わえる面が、人生にはあるでしょう。「そのままでいい」という考え方だけでは、幸福感を得るという機会を失わせてしまう可能性があります。
「頑張るべき」という考え方でしか、子供に接しないとすれば、どうなるでしょうか。頑張ることができない状態にある子供には、とてもきついです。ただでさえ、自分を否定してしまっているのに、「頑張るべき」と言われると、その自己否定感がさらに強まってしまいます。また、頑張れないことに対する焦りが強まってしまいます。
結局のところ、「そのままでいい」「頑張るべき」という考え方によって、子供がどのような状態の時に接するかが重要になってくるのでしょう。
Comments